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木原信敏元ソニー木原研究所社長






木原信敏元ソニー木原研究所社長(80)が、革新的なヘッドホンカセット「ウォークマン(Walkman)」の設計図を一枚の紙に描いてから幾年月、ソニーは2006年、創立60周年を迎えた。当時と異なり近年は不振の続く同社だが、技術陣の草分け的存在として、木原氏は会社の核である創造性はいまだに失われていないと信じている。

■日本が経済大国へ向かった過程と重なる木原氏の足跡

 創業者の井深大、盛田昭夫の両氏に比べ知名度は高くないが、木原氏は日本初のテープレコーダー、携帯用テープレコーダー、ステレオセット、ベータマックスビデオ、デジタルカメラといった数々のソニー製品の開発に携わってきた。テレビや小型ビデオカメラの開発でも、重要な役割を果した。

 2006年、60年近く勤務したソニーグループを退社した木原氏が、AFPの取材に対し次のように語った。

 「われわれは優れた、質の高い製品を作ってきました。創設者の井深氏と盛田氏は、広告と宣伝の重要性も理解していた。それが、ソニーが成長した理由です。
 会社を大きくすることを目的としたことはありません。われわれが製品開発に取り組む過程で、たまたま会社が大きくなっていったにすぎないのです」木原氏はソニーの社員であったことを、また井深氏の愛弟子であったことを誇りに思っていると言う。

 1926年生まれの木原氏の経歴は、小さな電子機器工場に端を発し、国際的な大企業にまで発展したソニーの歴史と重なる。それはまた、日本が第二次世界大戦(World War II)のがれきの中から復活し、世界第2位の経済大国となる過程でもある。

 木原氏の技術者人生は、おもちゃを自分で改造するところから始まった。無線受信機を組み立てたり、鉄道模型を作ったりするうちに、機械技師を志すようになる。敗戦後、木原氏は自ら組み立てた無線や電子機器部品などを売って家計を助け、自身の学費もそこから工面したという。

■「技術のソニー」、栄光と挫折

 井深氏が仲間とともに、ソニーの前身である東京通信工業を設立したのはちょうどそのころだ。1946年創立の東京通信工業は、電気通信機や測定器を研究、製作する小さな会社だった。

 井深氏と盛田氏は、実験を繰り返し、「欧米の発明から学べ」と若い技術者たちを奨励した。新卒採用一期生で「ソニーの宝」との愛称をもつ木原氏が中心となって開発した技術は、1950年代に、世界で初めて商業的成功を収めたトランジスタラジオに結びつく。

 このトランジスタラジオで、ソニーは一躍、世界中から称賛を集めた。その後、家庭用ステレオセット、テレビ、ビデオレコーダー、パソコン、プロ用放送機材と、ソニーは立て続けにヒット商品を出した。

 当時を振り返り木原氏は言う。「かつては製品設計は、まず紙に手で描く以外に、方法はありませんでした。そこで私は、ウォークマンを聞きながらジョギングをする人の姿を思い浮かべました。どんなふうに金具が動くか、使い手の生活スタイルにどのようにフィットするかを想像したのです」

 また、「幸運の女神が見守ってくれていたのだと思わざるをえません。助言が必要になると、まるで誰かが導いてくれてでもいるように、ヒントや答えが載っている研究や書物に出会うことができました」とも語る。

 1979年に発売された元祖「ウォークマン」が、「世界中の人々の音楽生活を変えた」という意見に、異議を唱える人はほとんどいないだろう。

 しかし、1970年代には、家庭向けビデオテープレコーダーの規格論争で、ソニーが推すベータマックス(ベータ方式)が他社の推すVHS方式に敗北を喫した。木原氏は、消費者が性能の劣るVHS方式を使うよう強制された経緯を思い返すたびに、いまだに血が逆流する思いだと言う。

 その後、ソニーは、デジタル携帯音楽プレーヤー市場では、米アップル(Apple)の切り札「iPod」に敗北。薄型テレビ市場でも、松下電器産業(パナソニック)に遅れを取っていった。

■「技術屋魂」は、どこにいったのか

 2006年、同社史上初の外国人トップとなったハワード・ストリンガー(Howard Stringer)代表取締役会長兼CEOの下、ようやく経営不振から立ち直りかけた矢先、ノート型パソコン用リチウムイオン電池の大量リコール問題が発生した。

 ソニーが自主回収するリチウムイオン電池は9600万個にのぼるとされる。10月26日に発表された同社の2006年度第2四半期決算では、208億円の損失を計上。通期連結業績見通しでは、営業利益を78%減の500億円に下方修正した。2005年度実績の25%に相当する。

 ソニーの「冬の時代」は、「近代ソニー」として電子機器製造だけでなく、音楽、エンターテインメント部門などを抱える巨大複合企業体に成長したため、「創業者井深氏のものづくり精神を、見失いつつある象徴ではないか」と一般に受け止められた。

 元ソニー社員の甘利明経済産業相も、「元社員から見ても、『どうしちゃったんだ』と思う。問題点を早く修正して、技術企業としてのブランド競争力を取り戻して欲しい」と述べたほどだ。

 信頼性の高い技術と、デザイン性の高さ裏打ちされたブランドイメージを武器に、長年ソニー製品は他社に比べて高い値段で売られてきた。主力外の金融などに手を出したこと、経費削減を目的に部品製造などを外部委託するようになったことが、同社の技術力を弱めたとみるアナリストもいる。

 しかし、木原氏は言う、「技術的な進歩というのは、どれだけ小さな一歩であっても、非常に難しいものです。外部の人たちは、知ることはないのです。私たちが、何に、どのように資金を投入し、どんな失敗をし、その失敗をどうやって克服していったかを」と。
 
ソニーは今、次世代DVD規格で、家庭向けビデオテープレコーダーと似たような規格論争に備えている。

 木原氏は、ソニーの技術者全員が技術の限界に挑戦しており、今後も挑戦し続けていくことを疑わない。「わたしたちの技術屋魂はちゃんと若い人々に受け継がれている。自信がありますよ。独自性と創造性、それがソニーのクオリティーです。技術革新は、他の人たちのまねを始めたとき、終わります」

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